気象予報をもう一度見直す - 2021.09.23 - 成田空港の霧

成田空港を飾る気象

 (そんなこと言わないかもしれませんが)「霧の摩周湖」、「一週間に 8 日雨が降る屋久島」など、特徴的な気象現象が起こる場所は少なからずあります。おそらく成田空港も、そうした場所の一つです。しかも、修飾する気象が一つでないという、なかなか欲張りで魅力的な場所でもあります。

 では、成田空港を飾る気象現象にはどんなものがあるのでしょう。その一つが「霧」です。着陸をやり直す飛行機に、お客さんとして乗り合わせることは、滅多にありませんが、昨晩 9/23 には、そういう方たちが、少なからずいらっしゃったと思います。

 

地上天気図的には

 9/22 に西日本から寒冷前線が接近、明け方に関東地方を通過しました。もっともこの寒冷前線による影響は、結果としてはあまり顕著ではなかったようで、前線付近で対流雲や悪天が起るというよりは、高気圧の進行方向後面域で、対流不安定な場所がちらほらあったという印象でした。

 そして昨日 9/23 も、千葉県北部は、総観的にははっきりしない気圧場下にあるものの、実際には雲はあるものの朝から概ね晴れていました。そのため、天気が悪そうな場所は、低気圧がゆっくりと東進通過する津軽海峡界隈と思われる一日でした。

 

成田空港の気象通報を見てみましょう

 物事が悪くなる時には、得てして「坂道を転がるように」、みるみるうちに悪化します。そして、これは気象にも少なからず当てはまります。

 実際、午後 8 時頃までは、ほとんど雲の無い平和な秋の夜でした。2日前の中秋の名月の余韻のたっぷり残る明るい月を見ながら、16日の月が十六夜(いざよい)月、17 日の月は立待月だったっけ、等と思っていたのです。その時間の成田空港 (NRT/RJAA) の実況気象通報式です。

METAR RJAA 231100Z 04003KT 020V120 9999 FEW030 23/22 Q1013 NOSIG=

METAR RJAA 231130Z 09003KT 030V150 9999 FEW002 23/23 Q1013 BECMG 04005KT=

 後から振り返れば、午後 8 時 30 分の気象通報に『FEW002』(地上から 200 ft (60m) に雲少しあり)という雲が現れ、気温と露点が 23 ℃で一致しているので、靄や霧のような視程障害現象が、「その後もそうした状況が続いていれば」、起こったとしても条件的にはおかしくはありません。しかし実際には、関東平野に広がる街の明かりが、遠く山裾まで広がっていたのです。

 

 「予期せぬ第一報への対応」。これが、遅れるとまでは言わないまでも、一旦確認を要し、気持ちを切り替えるのに一呼吸かかるのは、ことわざ通り、「百聞は一見に如かず」だからでしょう。人間は、良くも悪くも「視覚」情報に大きく影響を受ける生き物で、イメージの無い情報は、イメージを作る時間分だけ、初動が遅れがちです。想像力、空想力、妄想力、いずれにしても、思い描くことほど、行動に確かな方向性を与えてくれるものはないのだと思います。

 

 完全に脱線しました…。

 

 かくして、『霧の成田』に遭遇した最初の飛行機の第一報により、おそらくオセロの盤面がパタパタと変わって行くように、着陸のための最低気象条件ギリギリの運航へと変わって行きました。以下が、午後 9 時から、10 時 12 分までの気象通報です。普通は 30 分に一度しか報じられないので、この気象通報の多さが、天気の悪さを如実に物語っています。

METAR RJAA 231200Z 03006KT 1300 R16R/P2000N R16L/0900VP2000D BR FEW001 BKN002 23/22 Q1013 TEMPO 0500 FG=

SPECI RJAA 231206Z 02007KT 0900 R16R/P2000N R16L/0900V1400N FG FEW001 BKN002 23/22 Q1013 RMK 2ST001 7ST002 A2994=
METAR RJAA 231230Z 03006KT 0800 R16R/1300VP2000N R16L/1100VP2000U FG FEW001 BKN002 23/23 Q1013 TEMPO 0500 FG=
SPECI RJAA 231234Z 02006KT 0900 R16R/1300VP2000N R16L/1200VP2000U FG SCT001 BKN002 23/23 Q1013 RMK 3ST001 7ST002 A2994=  

SPECI RJAA 231248Z 03005KT 1500 R16R/2000N R16L/2000N BCFG BR SCT001 BKN002 23/23 Q1013 RMK 3ST001 7ST002 A2993 FG ON RWY34L=

METAR RJAA 231300Z 03005KT 350V060 1700 R16R/P2000N R16L/P2000N BCFG BR FEW001 BKN002 BKN003 23/23 Q1013 TEMPO 0900 FG=

SPECI RJAA 231312Z 02005KT 2700 R16R/P2000N R16L/P2000N BR FEW001 BKN002 BKN003 23/23 Q1013 RMK 1ST001 6ST002 7ST003 A2994=

 午後 9 時から 10 時前位が一番悪い時だったようですね。

 雨上がりの風の弱い時、梅雨時の明け方等、成田は霧の影響を受けることが時々あります。ということで、久しぶりにこの時間の数値予報を見てみることとしました。

  

気象庁 MSM 予報によると

f:id:ohigehige:20210924231241p:plain

 上図は上左が、地上 1000 ft(300m)における風、上右が同高度における湿度。下左が、地上 370 ft(110 m)における風、下右が同高度における湿度です。

 総観的には、気圧傾度のはっきりしない気圧場下にあったので、局地性の海陸風の影響がはっきり出ています。つまり、鹿島灘から北東の海風が吹き込み、東京湾、房総半島周辺では南東風が卓越しています。成田近辺はちょうどその二つの風が合流する、風の変わり目、無風場となっています。局地的前線と言ってもよいのかもしれません。

 湿度で見ると、地上 110m では、成田のすぐ南までが、湿度の高い地域となっており、成田空港自体は乾燥しています。

 数値予報の初期値 (*) は、観測値というわけではないので、実際の状況と比較した場合、5 km メッシュ 2 つ分(つまり 10 km)位予報がずれたのかな、という感じでした。つまり、高い湿度域が、北にもう 10 km 程広がっていると、実際の感じになるかな、という印象でした。

 いずれにせよ、数値予報からは、気圧傾度のはっきりしない場において、成田空港周辺に風の不連続域が生まれる一つの状況がはっきり見て取れました。空港周辺だけ霧が出る理由は、この不連続域に水蒸気が集中するためなのかもしれません。

 

終わりに

 昨晩は、数値予報を見てみたいと思うほどの霧が成田空港で発生しましたが、今日は「カメ」が現れて、滑走路が短時間ですが、閉鎖していたようです。

 空港は、実は都市部に近い、広大な自然区画(かなり変な言い方ですね)でもあるので、鳥や小動物は、少なからず生息しています。減便している昨今は、そうした生物が羽を伸ばしていたのかもしれませんね。

 

(*) 数値予報の用語については、以下の気象庁の HP に解説があります。

www.jma.go.jp

 

本日も最後までお付き合い、どうもありがとうございました。

旧暦再考 ~ 「中秋」から振り返る

中秋の名月、見えていますか

 18日朝に台風 14 号が過ぎ去ってから、今日の昼頃までは、文字通り雲一つない青空の毎日が続き、非の打ちどころのない秋の晴天に恵まれました。中秋の名月にあたる、今日 9/21 夜には、特に関東南部では、雲が少し広がる予報が出ていましたが、今のところ、澄んだ夜空を大きな月が明るく照らしています。

 旧暦の呼称や、暦の上での節気を耳にすると、普段見落とし過ごしている季節の移ろいを思い出せるようで、懐かしいような、ほっとするような思いがします。一方で、特に旧暦に関しては、自分の感覚的にはどうもしっくりこない気がします。「中秋の名月」も、秋の満月の代名詞のような印象があるものの、その実、旧暦 8 月 15 日の月を指しているだけに過ぎません。にもかかわらず、話題への上り方はひとかたならないように見えます。おそらく、9月という月は、実際の気温や天候の変化に加え、うだる様に暑いだけだった夏から解放され、私たちのやや麻痺し、疲弊していた感覚が戻って、変化に敏感になれる時期でもあるのかもしれません。

 

旧暦再考

 旧暦と言っても、時代によって時代ごとの暦が実際には使われており、そもそも一意なわけではありません。あくまで現行の太陽暦グレゴリオ暦)に対置した場合に、それ以前に使っていた暦というだけです。つまり、太陽暦が、地球が太陽の周りをまわる周期を基準とした暦である一方、旧暦である太陰暦は、月の満ち欠けの周期を基準とした暦となっています。

 残念ながら、地球が太陽の周りをまわる周期と、月の満ち欠けの周期は、何らかの関係はありそうですが、現実的には対応させようとすれば調整が必要で、実際、普通に生活していては、現在が旧暦の何時にあたるのか分かりません。国立天文台の方々が、膨大な資料を発表して下さっているのは、そういうわけですね。

eco.mtk.nao.ac.jp

 日本で陰暦という場合、太陰暦を基準にしつつ、太陽の周期に補正するため、閏月を入れた暦です。旧暦の 12/2 を新暦の 1/1 にしたため、ざっくり言えば、新暦は旧暦より 29 日進みました。 旧暦が、新暦のひと月前位の日時にあたるのは、こういう理由です。

 月の満ち欠けの周期が、29 日から 30 日のため、陰暦の一年は 354 日となります。そのため、365 日が一年である太陽暦に合わせようとすると、3 年に一度、閏月を入れる必要があります。

 太陽暦に関しても、4年に一度、閏年を入れたりすることを考えると、精度が上がれば上がるほど、各種微調整が必要となりそうですね。

 

私たちは、月の申し子なのか、太陽の申し子なのか

 太陰暦から太陽暦を使うようになったことを見ても、歴史的に古いのは、どうやら太陰暦のようです。また、イスラム教の世界では、現在でも太陽の動きの補正を加えずに太陰暦を使っているそうです。

 「人間は、日の出ている間活動し、日が落ちたら寝る、という生活を長い間してきた」、というような印象とは裏腹に、実は生活や一年を判断する基準は、夜頭上を巡る月の満ち欠けや、星の動きに基づいていたのでしょうか。それとも、月の観測の方が、太陽の観測よりもやりやすかったという、実際的理由のためでしょうか。

 人々の価値観の中で、月に見出していた何らかの価値が、太陽に見出す価値に取って代わられた。その価値観の変化が、太陰暦から太陽太陰暦、そして太陽暦への変遷の一因、原動力になったのではないか、と思うのは、実に勝手な推測ですね(笑)。

 

 昼も夜も爽やかで澄んだ空を眺めていると、本当に幸せな気持ちになります。どうやら明日は晴れの中休みとなるようですね。

 本日も最後までお付き合いどうもありがとうございました。

雲の底 ~ おそらく大気の不連続面 ~

今日は青空が嬉しかった

 平日の休みの今日、東京では予報に反してほぼ一日青空に恵まれ、私にとっては本当に嬉しい一日となりました。

 9 月もいつの間にか半分が過ぎました。日中は気温が上がり、汗ばむ気温となったしても、日が落ちてくると、途端に過ごしやすくなります。残暑と呼んでも良いのかもしれませんが、堪える暑さはどこへやら、本格的な秋の足音が聞こえるのももうすぐそうです。街路樹の葉も、一枝に数枚ほどは色が変わり始めているものもあります。

 

晴天率の低い白露~秋分期間

 来週には秋分を迎えるこの時期は、実は秋晴れという言葉とは裏腹に、晴天率は低い時期だそうです。事実、1967 年から 1987 年の東京の白露から秋分の晴天率は 33 % から 27 % と、ひいき目に言っても晴れは少ないです(*1)。

 今年 2021 年は 9/7 が白露、9/23 が秋分ですが、確かに、9月に入ってから青空を見上げられたのは数えるほどのような気がします。気象庁の天気図を見ても、この 9 月、15日間で日本付近に停滞前線や低気圧が描かれている日は 10 日以上、それ以外の日も、弱くはっきりしない気圧場下にあり、積極的な晴天が望める状況にはなっていなかったようです。

www.data.jma.go.jp

 

雲の底にある(と思われる)大気の不連続面

 大気の動向が可視化している現象の最も顕著なものが雲だと思います。世界気象機関では雲を、その高さや出来方と形で 10 種類に分けています。これ以外にも、俗称、俗説を含めて様々な雲の呼び名があるようですが、それだけ、私たちの関心をひきつけて止まない存在であるのだと思います。この機会に、雲形 10 種に関するうんちくを傾けてみてはいかがでしょうか。

tenki.jp

 一般論として、飛行機で通過する時、雲底(雲の一番低い部分)付近は揺れることが少なくありません。それはおそらく、雲底のすぐ下付近の高度が、大気の不連続面になっている、という理由によると思います。その不連続面について、見てみることとします。

 

① 冬季の強風軸

 こうした不連続面が大規模に現れる一例として、冬季上空に現れる強風軸(一般にはジェット気流とか偏西風などと呼ばれます)があります。この強風軸の南側下層に形成されている上空の前線帯の暖気側上部には、高層雲のような雲がしばしば見受けられます。上昇中その雲に近づいてゆくと、それまで静かな冬晴れの中の飛行が嘘のように、数分ですがそれなりの揺れに遭遇します。強風軸に入り、風速が急増するためです。もっとも、雲底高度を超えれば、程なく揺れは落ち着きます。強風軸の中にいったん入ってしまえば、また静かな飛行となる場合がほとんどですが、風速は非常に大きく、西行きはなかなか進みません。

 

② 気温が 0 ℃ 位になる中層雲の雲底

 上空の強風軸の前線帯の風の変化は数値予報で明確に現れる場合が多いですが、負けず劣らず揺れるなあ、と思うのが、地上の前線があったり、気圧傾度の全くはっきりしない、弱い気圧場において、外気温度がちょうど 0 ℃前後になる付近の高度です。

 昨日、おととい(9/13、14)も、九州北部から関東にかけてはそういう状況になっていたようで、地上気温が 22 ~ 25 ℃、教科書通り、標準気温減率 (1000 ft で 2 ℃ 減少)前後で気温が低下した、12000 ft から 14000 ft 辺りの中層に、層雲ではないものの、弱い弱い対流雲が形成されていたようです。その雲底では、福岡周辺でも房総半島周辺でも、それはそれは「いい感じ」の揺れが報告されていました。

 もっとも、こうした雲底では、得てして風が非常に弱い、あるいは風向も定まらず弱い場合が多く、おそらく数値予報でも有意な(あくまで航空機の運航という観点からですが)何かが見出せるようには思えません。いつものように MSM を見ても、「風は弱いんだけどかなり揺れたね」、としかならなさそうなので省略しました(笑)。とはいえ、同日の地上天気図を『気象庁の過去の天気図』でご覧頂くと分かるように、気圧傾度が全く以てはっきりしません。一方雲画像を眺めると、活発な対流雲では決してないものの、何となく薄い雲が広がっていたのでした。

 大気、あるいは気団の不連続面には、大なり小なり気象のドラマが潜んでいる、と感じる次第です。

 

台風 14 号 (CHANTHU) の行方は…

 東京は暑さのまだ残る毎日ですが、北日本には、冬場に現れる強風軸がすでに現れています。そして今週末、この強風軸の南下に伴い、台風 14 号 (CHANTHU) が東進、本州を横断する予報となっています。

 一昨年 2019 年には、台風 19 号により、関東では、停電を含め、かなり被害が出ていました。台風に関わらず、停滞前線の活動などで、今年もすでに種々の被害が出ていますが、以前の記事で見たように、今年も降水量の多い一年となっているのでしょうか。ひどい事にならないことを祈るばかりですね。

 

本日も最後までお付き合いどうもありがとうございました。

 

(*1) 『日常の気象辞典』 平塚和夫編 東京堂出版 (2000)

 

 

 

 

 

年降水量偏差と太陽黒点数の関係 ( は多分ほぼない )

降水量と太陽活動

 先日の記事で、素人考えからすると、太陽活動の強弱で気候の変化が説明できる部分があるのではないかと書きました。

 無線の世界では『サイクル 24 が終わりかけで…』等と言って、太陽活動によって通信に影響が出ることがかつて取りざたされていました。太陽活動周期はおよそ 11 年周期とよく耳にしますが、同じように、気象庁の年降水量偏差と太陽活動には、何か相関が見出せるのでしょうか。 

www.data.jma.go.jp

 

そもそも太陽活動は、どのような指標を使って考えるのか

 経済活動や災害の規模等を考える場合もそうですが、それを表わす指標や基準は色々選ぶことができます。また、選んだ指標や基準の結果への影響の程度も一様ではありません。そもそも太陽の活動周期が約 11 年というのは、何を根拠とするものだったのでしょう。

 太陽活動による効果(Wikipedia へ)は、磁場、放射、電波、爆発、宇宙線等があります。太陽については、記録された長さから、黒点の数、F10.7 太陽電波フラックス(太陽からの電波のピークに近い波長 10.7 cm の電波)等がよく使われ、黒点の数については、400 年にわたる記録があります。

commons.wikimedia.org

 太陽活動を測ることは、宇宙利用の拡大とも相まって、広範多岐にわたるようで、検索する程度では、残念ながらそのさわりすら把握できませんでした(泣)。

 いずれにせよ、太陽活動周期が約 11 年というのは、黒点数の変動周期で、今回も黒点数の変化を太陽活動周期と考えて、年降水量偏差との関係を調べてみることとしました。

 

太陽黒点数データ

 太陽の黒点数データも色々な研究機関が公表していますが、今回は国立天文台三鷹太陽地上観測のデータを使わせて頂きました。1929 年から 2021 年まで日々の数値が公開されており、1929 年からの黒点相対数のグラフも見ることができます。

solarwww.mtk.nao.ac.jp

https://solarwww.mtk.nao.ac.jp/jp/image/wolfnumber.png

   Copyright 2017 Solar Science Observatory, NAOJ. All rights reserved. (Above)

 

しばらく眺めてみた結果…

 上のグラフの通り、太陽黒点数は確かにきれいな周期を描いて増減することが分かります。ですが、気象庁の年降水量偏差と比べると…、んー…、

 「時系列変化の状況を見てみると、これはほとんど関連無しかも…」

という残念な予想が見えた気がしました。本当は、pandas を駆使してあれこれやろうかとも思っていたのですが…。ですが、あれこれ調べた半日を一応形にするべく、めげずに可視化と相関を求めてみました。

 

データの準備と整形

 年降水量の偏差は csv 形式、黒点数の年平均値は txt 形式のファイルでした。対象期間は、気象庁国立天文台に共通する期間、1929 年から 2020 年としました。そして、年降水量偏差が 1991 年から 2020 年の 30 年平均からの偏差を使っているので、黒点数に関しても、同じ期間の平均値からの偏差を用いました(あまり意味は無さそうですが)。

 ちなみに1991 年から 2020 年の黒点数の年平均個数は、49.77 個でした。

 

年降水量偏差と黒点数偏差の相関

 年降水量偏差と黒点数偏差の推移を視覚化した結果が以下の通りです。

f:id:ohigehige:20210902171228p:plain

 同じく、df.corr() により相関係数を求めてみると、0.115019。ほぼ無関係ですね…。やっぱり。

 

まとめ

 前回の記事を書きながらふと思いついた、年降水量偏差と太陽黒点数偏差の相関は、ほとんどないことが分かりました(泣、残念)。

 太陽活動を黒点数で代表させ、また太陽から届いたエネルギー(正確にはエントロピーでしょうか)が色々変遷して現れる実に多くの結果の一つが降水であることを考えれば、両者に直接的、あるいは有意な関係を見出すのは、ちょっと無理かもしれませんね。

 蛇足ながら、太陽活動と株価の相関や景気の予想を試みた例も多々あることが分かりました。是非はともかく、人間が太陽や月に何かを見出そうとするのは、因果的に世界を理解しようとする、長年にわたり培われた思考パターンの一つなのかもしれませんね。

 

本日も最後までお付き合いどうもありがとうございました。

8 月、雨は多かったのか ~ 30 年間の降水量平均からの偏差 ~

8 月も終わりですね 

 東京では昨日までの日差しと暑さがようやく一息つきました。いつの間にか 8 月もあと僅か、日が落ちるのが確実に早くなっています。

 活動が限られる状況にあった夏だったというだけでなく、この夏、雨は確かに多かったように思います。特に 8 月半ばは、台風や停滞前線による大雨の影響で涼し過ぎるような日もありました。日本のどこかの地域で、大雨による警報が出ているのを毎日のように耳にしていたように思います。

 ここ何年か、雨や災害の水準が極端過ぎると感じてきましたが、どうやらそれは肌感覚というだけではないらしいデータがありました。

 

過去 30 年平均とその年の降水量を比べる

www.data.jma.go.jp

  気象庁では、1991 年から 2020 年までの 30 年間における年降水量平均値からのずれ(偏差)の変化をまとめていたんですね。こちらのデータによると、2010 年代の 10 年間は 30 年間の平均以上に降水量があった、文字通り『土砂降りの 10 年 (!) 』であったことが窺えます。最近の雨の降り方は酷い、という感覚は、このデータからも裏付けられそうです。

 もっとも、過去に年降水量が平均よりも多い時期は、1950 代の 10 年間、更に遡ると、20 世紀になる頃には 20 年以上に渡っていた時期もあります。ここ 10 年ほどは確かに雨の多い時期ではありますが、過去に類を見ない異常気象とまで断じるのは、どうも早計かもしれません。私たちの経験した期間内では、あるいは(何となく)覚えている限りは、という程度には正しいかもしれませんが。

 

凍っていたテムズ川

 気象や気候が絶対的な基準から見て変化している、特に人為的行為による影響を受けていると結論付けるのは、それが事実であったとしても、個人的にはいつもちょっと違和感を覚えます。というのは、つい 400 年余ほど前には、ロンドンのテムズ川が凍っていた絵があるからです。

natgeo.nikkeibp.co.jp

 近年ヨーロッパの夏と言えば、高温が続き、所によっては火事が起き、一方、大雨により川が氾濫する地域も少なくありません。そして、最近ロンドンの夏と言えば、ジメジメした不快感は確かにないものの、高気温と相まってカラカラの乾いた夏です。

 検証するのは難しそうですが、何百年、あるいは千年スパンで気候を眺めた時、それなりに、例えば太陽活動の強弱で説明がつくのでは、などと素人考えで感じたりもします。

 

やっぱり再生可能エネルギーに期待

 色々課題もありそうですが、太陽の恵みに起因する再生可能エネルギーをできる限り上手に使って、環境にもやさしく、輸入資源に依存し過ぎない日本であって欲しいと思います。

 

 本日も最後までお付き合いどうもありがとうございました。

極端な夏

世の中変わった…

 特にこの一年余り、色々な面でそう感じることが多い気がしますが、今日は天気予報でもちょっと耳を疑いました。というのは、『明日の熊谷市の最高気温は 40 ℃』と予想されていたからです。

 予想最高気温が 38 ℃や 39 ℃だったけれども、街中などでの実際の気温が 40 ℃を超えた、という話は少なからず耳にします。ですが、予想ですでに 40 ℃ということは…、多分街中では、もっと高くなるのでしょうね。明日の暑さが思いやられます。

 例えば、岐阜や北関東の気温が上がる理由は、南からの湿った熱い空気が、名古屋や東京圏の街の熱を運ぶことによるものと思っていたのですが、明日の高温の理由は、元台風 9 号である、日本海に位置する温帯低気圧の周りを吹く風が、北アルプスから北関東の山を越えて吹き下ろすフェーン現象も大きな要因となるようです。

 日本の山の高さは、風が当たって、水分を落として、吹き下ろすには絶妙にいい高さなのでしょうね。

 

極端な夏

 激しい雨や暴風、酷暑は日本だけではないようです。現在も、米カリフォルニアやギリシャでは暑さによる火事、ドイツやベルギーでは洪水が起こっています。こうした現象は『極端な夏』と呼ばれ、温暖化による気候変動の一環と推定されています。

 今日は「気候変動に関する政府間パネル (IPCC)」の最新の報告書が発表されました(例えば、Climat : été extrême, urgence absolue)。地球の平均気温の上昇幅を、産業革命以前比で 2 ℃に抑えましょう、というもので、数字自体は新しくない気もしますが、現在の気温上昇の速度が速まったため、その実現をより強く要求するものとなったそうです。気候に限らず、どんな分野でも、その実効性は大きな課題ですね…。

 

2 ℃の根拠

 地球の平均温度が、産業革命以前比で 2 ℃上昇すると、北半球の中緯度では 2 週間を超える高温期間に見舞われる可能性が 4% 増加し、北米東部では、暑さや日照りが続く可能性が 20% ほど増加、また洪水を起こす恐れのある 1 週間以上の豪雨が 26% ほど増加する、というシミュレーション結果 (2019) があるそうです。

www.nature.com

  このモデルによると、平均気温の上昇幅を 1.5℃ に抑えられれば、先の増加が避けられるのだそうです。IPCC の報告書の根拠はこの辺にあるのでしょうね。

 

当面の夏の過ごし方

 とはいえ、温暖化対策の道のりは、できるとしてもまだ時間はかかりそうです。当面は、局地的大雨や倒れそうな暑さとお付き合いする夏は続きそうです。酷暑の間の暮らし方、過ごし方の仕組みを変えることも現実的かもしれませんね。

 

 本日も最後までお付き合いどうもありがとうございました。

寒冷渦、トロコイダル運動 ~ 気象予報をもう一度見直す - 2021.07.27 -

はじめに

 一昨日位には、台風 8 号は房総半島付近から北関東を通過し、新潟県から日本海に抜けるという、ほとんど見たこともない予報が出ていました。どうなることだろうと、ドキドキしながら今日を迎えていたのですが…。実際には、房総半島沖で何となく停滞後、今度は北に進路を向け、明日 7/28 には宮城県付近に上陸、山形から秋田県の方へとその進路を取ることとなったようです。こうした進路も、これはこれであまり見たことがないのですが、きっと台風の西に位置する(とニュースで言われていた)「寒冷渦」が今回はよほど進路に影響を与えているのでしょうか。

 

寒冷渦とは

 『対流圏上部を走る強風軸の蛇行が大きくなり、蛇行の一部が強風軸から切り離され、結果として上空に寒気が滞留する現象で、低気圧性回転を持つ。そのため、寒冷低気圧、切離低気圧 (Cut-Off Low) とも呼ばれる。地上天気図にはあまり現れず、中層~上層で顕著に見て取れる。』インターネットで調べれば、様々なサイトでこんな感じの説明におそらく当たることと思います。

 しかし、ここ何日間かは、特に夏季ということもあり、日本付近に蛇行する強風軸が吹いている印象は全くありませんでした。前回書いたように、安定した高気圧圏内が本州周辺を覆っていると思っていたのですが…。ということで、数値予報を見てみることとしました。

 

気象庁 MSM によると

f:id:ohigehige:20210727222709p:plain

 上図は、2021 年 7/27 午後 0 時 (12L) の上空の等圧面高度と風の様子です。左から、地表付近 (300 m)、大気中層 (5400 m)、対流圏上層 (12000 m、航空機の巡航高度付近) の解析です。

 台風 8 号が上空まではっきり見て取れます。しかし、台風の西~南西には、台風の周囲を吹く風しかやはり現れていない気がします。

 

地上天気図を見直すと

 この数日、沖縄県西、台湾北には台風 6 号、本州の遥か南東、東経 150 度北緯 28、9度付近には台風 8 号が位置していました。つまり、本州周辺は太平洋高気圧にしっかり覆われているわけではないものの、相対的には北からの寒気が張り出す高圧部となっていたと言えます。実際、西日本から紀伊半島周辺では、確かに高気圧圏内を飛んでいるような安定した状況でした。

 つまり、台風 8 号は教科書通り太平洋高気圧の周囲を進行しつつ、太平洋高気圧に比べれば相対的に弱く張り出す寒気の間に進路を取っていた、と考えるのが妥当そうです。

 確かに、ニュースで気象庁の方は、寒冷渦とはお話していましたが、寒冷低気圧、とはおっしゃっていなかったように思います。寒冷渦=寒冷低気圧と思い込んでいましたが、寒冷渦自体は、弱いながら高気圧性回転だったと考えれば、数値予報と整合します。

 

台風の眼の傾き ~トロコイダル運動~

 数値予報を図示した後、寒冷渦よりも、台風の眼が上空に行くにしたがって結構傾いていることがまず気になりました。傾きが進路に影響を及ぼすことに何か名前がついてような、ということで探してみると、ありました、ありました。

www.nhk.or.jp

 定性的にざっくり言えば、

『台風の中心軸が高さ方向に傾いていると、地上気圧最小地点(台風の眼)と、台風の渦巻きの中心がずれ、前者(地表の台風の眼)が後者(立体的な渦巻きの軸)の周りを回転するという事態が起こる。台風の平均的移動(渦中心の運動)にこの回転運動が加わると、台風中心の蛇行運動が発生する。これをトロコイダル運動と呼ぶ。』

 この運動は常に反時計回り、規模は数十~数百 km、周期は数時間~数日とのことです。定量的には、事例に基づきもっと詳細に考える必要がありそうですし、現時点では全く私の理解を超えますが、様々なスケールの現象が重なって一つの結果となる点が、気象の難しい所であり、面白い面であると改めて感じた次第です。

 

 本日も最後までお付き合い、ありがとうございました。 

暑さと安定を運んでくれる高気圧

一日の初めに

 今日も暑くなりそうだ…。

 朝 6 時前でも外は十分過ぎるほど明るく、空は青い。時折、薄い綿菓子のような雲が陽を遮ると、その一時は暑さが和らぎます。それでも、雲はゆっくりと確実に過ぎて行きます。射るような日差しはまた遠慮なく戻って来ます。

 梅雨明けから明日でようやく 10 日、今月の前半は局地的大雨の毎日であったはずですが、ほんの 10 日ほどの間に、すっかり暑い夏の毎日になじんでしまっています。雨への心配は、どこかで聞こえる遠雷の音でもしない限り、すっかり忘れています。

 

一年で一番快適な空の旅

 梅雨が明けてからしばらくの間、飛行機での移動はほぼ間違いなく快適です。揺れはまずなく、もしあるとすれば、局所的に発達した積乱雲からたなびく対流性の雲の側を通過せざるを得ない時だけです。太平洋高気圧の中の飛行は、それほど安定しています。

 夏の間、Commercial Jet が飛ぶ高度は対流圏の上部ですが、圏界面は通常それよりはるかに高くなっています。高気圧は、確かにうだるような暑さを運んできますが、一方で実に安定した大気層を構成しています。夏休みが始まって間もない時期ではありますが、快適な夏の移動は、梅雨が終わってからのしばらくの間のこの時期こそ、一年を通じ、一番良い時期の一つではないかと毎年思います。

 

台風の足音

 もっとも、太平洋高気圧の周辺では、だんだん台風の影響が出始めます。つい先日、沖縄や先島諸島では、6 号 (In-fa) の影響があったばかりですが、明後日 27 日には、8 号 (Nepartak) が房総半島から日本海へ抜ける予報が出ています。

 夏本番のこの時期に、どうして高気圧の縁がこんな所に位置しているのかと不思議に思ったら、何やら本州の南上空に寒冷渦があるらしく、台風は高気圧とその寒冷渦の間を移動する予想となっています。もし、明後日以降、関東で悪天に見舞われたら、ちょっと見直してみようと思います。もっとも今は、骨の髄まで完全に平和な夏モードになっているので、全く実感は湧かないのですが。

 

今日の終わりに

 夏は夕暮れも素敵です。昼間の暑さから解放され、体は少し息を吹き返す思いがします。茜色の空は、明日もまた暑い一日となることを宣言しているかのようです。もっとも、夏至から 1 か月、日は確かに少し短くなっています。良い時間というのは、今も昔も、駆け足で過ぎて行きます。

 

 良いペースでメダルが増えていますね。

 本日も最後までお付き合いどうもありがとうございました。