気象予報をもう一度見直す - 2021.09.23 - 成田空港の霧

成田空港を飾る気象

 (そんなこと言わないかもしれませんが)「霧の摩周湖」、「一週間に 8 日雨が降る屋久島」など、特徴的な気象現象が起こる場所は少なからずあります。おそらく成田空港も、そうした場所の一つです。しかも、修飾する気象が一つでないという、なかなか欲張りで魅力的な場所でもあります。

 では、成田空港を飾る気象現象にはどんなものがあるのでしょう。その一つが「霧」です。着陸をやり直す飛行機に、お客さんとして乗り合わせることは、滅多にありませんが、昨晩 9/23 には、そういう方たちが、少なからずいらっしゃったと思います。

 

地上天気図的には

 9/22 に西日本から寒冷前線が接近、明け方に関東地方を通過しました。もっともこの寒冷前線による影響は、結果としてはあまり顕著ではなかったようで、前線付近で対流雲や悪天が起るというよりは、高気圧の進行方向後面域で、対流不安定な場所がちらほらあったという印象でした。

 そして昨日 9/23 も、千葉県北部は、総観的にははっきりしない気圧場下にあるものの、実際には雲はあるものの朝から概ね晴れていました。そのため、天気が悪そうな場所は、低気圧がゆっくりと東進通過する津軽海峡界隈と思われる一日でした。

 

成田空港の気象通報を見てみましょう

 物事が悪くなる時には、得てして「坂道を転がるように」、みるみるうちに悪化します。そして、これは気象にも少なからず当てはまります。

 実際、午後 8 時頃までは、ほとんど雲の無い平和な秋の夜でした。2日前の中秋の名月の余韻のたっぷり残る明るい月を見ながら、16日の月が十六夜(いざよい)月、17 日の月は立待月だったっけ、等と思っていたのです。その時間の成田空港 (NRT/RJAA) の実況気象通報式です。

METAR RJAA 231100Z 04003KT 020V120 9999 FEW030 23/22 Q1013 NOSIG=

METAR RJAA 231130Z 09003KT 030V150 9999 FEW002 23/23 Q1013 BECMG 04005KT=

 後から振り返れば、午後 8 時 30 分の気象通報に『FEW002』(地上から 200 ft (60m) に雲少しあり)という雲が現れ、気温と露点が 23 ℃で一致しているので、靄や霧のような視程障害現象が、「その後もそうした状況が続いていれば」、起こったとしても条件的にはおかしくはありません。しかし実際には、関東平野に広がる街の明かりが、遠く山裾まで広がっていたのです。

 

 「予期せぬ第一報への対応」。これが、遅れるとまでは言わないまでも、一旦確認を要し、気持ちを切り替えるのに一呼吸かかるのは、ことわざ通り、「百聞は一見に如かず」だからでしょう。人間は、良くも悪くも「視覚」情報に大きく影響を受ける生き物で、イメージの無い情報は、イメージを作る時間分だけ、初動が遅れがちです。想像力、空想力、妄想力、いずれにしても、思い描くことほど、行動に確かな方向性を与えてくれるものはないのだと思います。

 

 完全に脱線しました…。

 

 かくして、『霧の成田』に遭遇した最初の飛行機の第一報により、おそらくオセロの盤面がパタパタと変わって行くように、着陸のための最低気象条件ギリギリの運航へと変わって行きました。以下が、午後 9 時から、10 時 12 分までの気象通報です。普通は 30 分に一度しか報じられないので、この気象通報の多さが、天気の悪さを如実に物語っています。

METAR RJAA 231200Z 03006KT 1300 R16R/P2000N R16L/0900VP2000D BR FEW001 BKN002 23/22 Q1013 TEMPO 0500 FG=

SPECI RJAA 231206Z 02007KT 0900 R16R/P2000N R16L/0900V1400N FG FEW001 BKN002 23/22 Q1013 RMK 2ST001 7ST002 A2994=
METAR RJAA 231230Z 03006KT 0800 R16R/1300VP2000N R16L/1100VP2000U FG FEW001 BKN002 23/23 Q1013 TEMPO 0500 FG=
SPECI RJAA 231234Z 02006KT 0900 R16R/1300VP2000N R16L/1200VP2000U FG SCT001 BKN002 23/23 Q1013 RMK 3ST001 7ST002 A2994=  

SPECI RJAA 231248Z 03005KT 1500 R16R/2000N R16L/2000N BCFG BR SCT001 BKN002 23/23 Q1013 RMK 3ST001 7ST002 A2993 FG ON RWY34L=

METAR RJAA 231300Z 03005KT 350V060 1700 R16R/P2000N R16L/P2000N BCFG BR FEW001 BKN002 BKN003 23/23 Q1013 TEMPO 0900 FG=

SPECI RJAA 231312Z 02005KT 2700 R16R/P2000N R16L/P2000N BR FEW001 BKN002 BKN003 23/23 Q1013 RMK 1ST001 6ST002 7ST003 A2994=

 午後 9 時から 10 時前位が一番悪い時だったようですね。

 雨上がりの風の弱い時、梅雨時の明け方等、成田は霧の影響を受けることが時々あります。ということで、久しぶりにこの時間の数値予報を見てみることとしました。

  

気象庁 MSM 予報によると

f:id:ohigehige:20210924231241p:plain

 上図は上左が、地上 1000 ft(300m)における風、上右が同高度における湿度。下左が、地上 370 ft(110 m)における風、下右が同高度における湿度です。

 総観的には、気圧傾度のはっきりしない気圧場下にあったので、局地性の海陸風の影響がはっきり出ています。つまり、鹿島灘から北東の海風が吹き込み、東京湾、房総半島周辺では南東風が卓越しています。成田近辺はちょうどその二つの風が合流する、風の変わり目、無風場となっています。局地的前線と言ってもよいのかもしれません。

 湿度で見ると、地上 110m では、成田のすぐ南までが、湿度の高い地域となっており、成田空港自体は乾燥しています。

 数値予報の初期値 (*) は、観測値というわけではないので、実際の状況と比較した場合、5 km メッシュ 2 つ分(つまり 10 km)位予報がずれたのかな、という感じでした。つまり、高い湿度域が、北にもう 10 km 程広がっていると、実際の感じになるかな、という印象でした。

 いずれにせよ、数値予報からは、気圧傾度のはっきりしない場において、成田空港周辺に風の不連続域が生まれる一つの状況がはっきり見て取れました。空港周辺だけ霧が出る理由は、この不連続域に水蒸気が集中するためなのかもしれません。

 

終わりに

 昨晩は、数値予報を見てみたいと思うほどの霧が成田空港で発生しましたが、今日は「カメ」が現れて、滑走路が短時間ですが、閉鎖していたようです。

 空港は、実は都市部に近い、広大な自然区画(かなり変な言い方ですね)でもあるので、鳥や小動物は、少なからず生息しています。減便している昨今は、そうした生物が羽を伸ばしていたのかもしれませんね。

 

(*) 数値予報の用語については、以下の気象庁の HP に解説があります。

www.jma.go.jp

 

本日も最後までお付き合い、どうもありがとうございました。