雪が積もれば大騒ぎ - 2022.01.06 - 都心に雪を降らせる南岸低気圧

 今日は七草の日、年が明けてはや 1 週間が経ちます。年末年始は、働いていても休みでも、時間があっという間に過ぎて行きます。3が日も駅伝の結果を追いかけているとすぐ過ぎていきますし…。ということで本年もぼちぼち綴っていこうと思っております。

 

東京都心に雪を降らせる南岸低気圧

 積もる雪となるだけで、これほどニュースになる場所も日本では少ないかもしれませんが、東京都心は雪の積もることがその位稀な場所です。とはいえ、5、6 年に一度は結構積もることもあります。何年か前(たしか 2014 年でしょうか)には都心でも数十センチの雪が積もり、道路や交通機関が一時的に機能しなくなったことがありました。出社できなくなったこともあり、道路の雪を雪かきして、その雪で近所の子も交えて雪だるまを作って過ごした、何となく懐かしい記憶もあります。今は、テレワーク推進中の世の中なので、影響を受ける方も、もしかしたらかつてほどではないかもしれませんね。

 関東南部で積もるような雪が降るのは、本州南岸を低気圧が東進する場合で、一般に「南岸低気圧」と呼ばれます。低気圧が通過するので天気が悪いことは容易に予想がつくのですが、雨で終わるのか雪になるのかは結構予報が難しいそうです。関東南部では、低気圧が八丈島の北を通過すると雨、南を通過すると雪の可能性が高いとも言われますが、離れすぎると降水の影響自体が当然なくなります。また、地表付近の寒気層の形成の影響も受けるため、雪かどうかの判断は難しいそうです。(南岸低気圧、と検索すれば色々な解説、説明がヒットしますが、例えば Wikipedia の説明をどうぞ)

ja.wikipedia.org

 

飛行機が雪に弱い 2 つの理由

 積もるような雪が降ると、飛行機の運航はいとも簡単に乱れます。まず、飛行機には車と違って雪道用タイヤやチェーンはありません。つまり、どんな状況になっても、年中ノーマルタイヤを履いています。そのため、空港の滑走路、誘導路に雪が積もると、たちまちカメのごとくノロノロ走行になります。加えて、翼の上に雪が積もると、飛行機が浮揚するために必要な揚力が得られなくなるため、雪を一定時間積もりにくくする防氷液をまいてから出発します。当然、その作業に多少時間がかかります。飛行機は、この 2 つが原因で、雪の影響が簡単に出てしまう乗り物です。

 かくして、そうした時間がほぼ考慮されていない路線で雪が降ると、遅れは避けられず、また取り戻せず、飛行機繰りが出来なくなり、結果欠航する場合も出てきます。事実、昨日は羽田や成田で遅れや欠航が出ていました。

 羽田では、ちょうどお昼前頃から SPECI と呼ばれる空港の気象状況の特別実況の発表が相次ぎ、雪が目立ってきました。その頃の状況を見てみましょう。

 

RJTT 060345Z 36009KT 1400 R34L/P2000N R22/P2000N R34R/2000N R05/P2000N -SN FEW005 SCT009 BKN013 01/M01 Q1022 RMK 1ST005 3ST009 6SC013 A3018=
SP

060333Z 01009KT 1300 R34L/1800N R22/2000N R34R/1500VP2000D R05/1900N -SN FEW009 BKN013 01/M01 Q1022 RMK 1CU009 7SC013 A3018=

060330Z 01010KT 1300 R34L/1800D R22/2000N R34R/1800D R05/1900N -SN FEW009 BKN013 01/M01 Q1022 NOSIG=

060317Z 01009KT 1500 R34L/2000N R22/P2000N R34R/P2000N R05/P2000N -SN FEW010 BKN015 01/M01 Q1022 RMK 1CU010 7SC015 A3018=

060311Z 01008KT 330V040 2000 -SN FEW010 BKN015 01/M02 Q1022 RMK 1CU010 7SC015 A3019=

060300Z 01008KT 3000 -SN FEW015 BKN020 01/M02 Q1022 NOSIG=

 

 METAR と呼ばれる空港の気象実況は通常、毎時 0 分、30 分にしか通報されませんが、特別実況が結構な頻度で発表されています。そして、この気象状況は午後 6 時頃まで続きました。この 6 ,7 時間ほどの間の高層気象観測は残念ながら無いのですが、その少し前はどういった状況だったのでしょうか。午前 9 時における館野と八丈島のゾンデ観測を見てみることとしました。

 

低気圧は遠くにあれど、雪は降る

 まず、2022 年 1 月 6 日午前 9 時の地上天気図を見ると、南岸低気圧の中心は、北緯 30 度東経132,3 度あたり、四国は足摺岬南の海上にあります。羽田で特別実況が出た正午にも東経 134,5 度辺りに位置し、こんなに離れていても関東南部では雪が降るのかと思ってしまいます。雪の降りが軽くなり始めた午後 6 時に、低気圧中心は北緯 31 度東経 138 度辺り、伊豆半島海上に位置していました。確かに、南岸低気圧中心は、今回八丈島南を通過しています。低気圧の中心気圧も 1012 hPa で、台風やいわゆる発達した低気圧の際に警戒されるような数値でもありません。

 つまり、低気圧やそれに伴う温暖前線自体の活動というよりも、降雪は、地形との相互作用で理解するしかなさそうです。同時刻帯の衛星画像を見ても、当然ながら暗めの雲、つまり雲頂高度の高くない雲画像が映っているだけなので、八丈島はともかく、地理的にやや離れた館野の高層気象データをみてもあまり有意なものは得られそうにありません。ですが、一応確認してみることとしました。

f:id:ohigehige:20220107145529p:plain


 上図は、いつものように気象庁の高層気象データをお借りして図示した、2022 年 1 月 6 日午前 9 時における館野(左)および八丈島(右)の大気鉛直方向の気温および露点、そして風の分布です。

 このデータから分かるのは、大気中層以上の高度(550 ~ 350 hPa)まで雲が広がっていたこと、館野では気温が 0 ℃前後なので、降水現象があれば、雪となること位でしょうか。八丈島上空では、西風が 160 kts 以上吹いており、低気圧が足早に東進したこともうなずけます。

 残念ですが、少なくとも私には、東京で雪が降ってもおかしくない典型的な気圧配置だった、という程度しか分かりません。高層大気のデータを見た意味があったとは、お世辞にも言えませんね(泣)。

 

打たれ、打たれて、抗わず…

 天気による影響が、私たちの生活に様々な爪痕を残すことが多くなっているように思える昨今ですが、そうした悪天自体は、半日もすれば、何事もなかったかのように過ぎ去って行きます。悪天の影響を克服すべく努力することは確かに必要ですが、抗わなくとも去ってゆくものも確かにあります。それはもしかしたら天気に限らないのかもしれません。

 十数年前、異動した部の人達と温泉に行った時のことです。瀧湯に打たれながら何とも言えない様子で心地良さそうにしている先輩がいました。当時は、なかなかゆっくり来ることが出来ない温泉を存分に楽しんでいるとしか思わなかったのですが…。時が経ち、その先輩と同じ位の齢になったかと思います。私にも、その心地良さが分かってきたのかもしれません。赤く腫れてるけど大丈夫かと、子供に心配されながらも笑われる自分がいました。

 良いことも、そうでないことも、やり遂げたことも、ぐっと頑張ることも、それは充実をもたらしてくれると同時に、身体には負荷なのでしょう。歳を重ねるということは、負荷がかかり続けることで、その負荷とは、月並みに言えば、人生の疲れと言ってもよいのかもしれません。

 別に何か壮大な目標や目的があって負荷を重ねてきたわけではありません。けれど、折り重ねてきた負荷が、もし何かの役に立っていたとすれば、それはなかなかまんざらでもない、そう思えた瞬間でした。打たれて、ひたすら打たれ続け、抗わず何もしないけれども澱が氷解してゆく確かな実感というものも存在するのです。

 雪で騒いでいる関東のこと等つゆ知らず、その時、不規則ながらも一定のリズムで落ちてくる瀧湯に私は打たれ続けていたのでした。

www.hyotan-onsen.com

 仕事の都合どうしてもこの日に帰る必要があったのですが、遅延や振り替え手続きの人たちで混みあう空港で、ひととき途方に暮れたことは言うまでもありません。でも、そうです。そういう時もあります。夜遅くたどり着いた自宅周辺の路面は、そこかしこに雪の名残があり、その融けたあとが凍結していました。今日は、屋根などあちこちに残る雪に太陽の光が反射して、いつもにも増して明るく、そして青空が綺麗です。

 

 本日も最後までお付き合いどうもありがとうございました。