5G と航空機

歴史もニュースも繰り返す?

 歴史は繰り返す、としばしば言われます。たとえ時代が変わっても、人間の行動傾向、原則が短期間には大きくは変わらないから、というのがその理由だからだと思います。ですが、果たしてこれは、理詰めで作り上げられる技術にも当てはまる話なのでしょうか。ちょっと気になるニュースを見つけました。

news.livedoor.com

 50 空港という数からすると、おそらく各州の大空港が対象になっていそうだと思い、FAA の発表するリストを見てみることとしました。

 

FAA は 5G の何を懸念しているのか

 FAA (アメリカ航空局)は、5G と Aviation Safety の特集サイトを作っています。昨年 12 月から結構な頻度で声明も発表されており。5G と航空の安全に懸念を示していることが窺えます。

 もっとも、同サイトには、5G はフランスや日本でも既に展開されて問題がないのに、なぜアメリカでは問題なの?、といった Q&A も出ています。

www.faa.gov

 上のサイトに 50 空港のリストが出ていますが、サンフランシスコ(SFO)やロサンゼルス(LAX)、ラスベガス(LAS)、シカゴ(ORD)、ニューヨーク(JFK、EWR)等、日本から飛んでいる就航先も少なからずその対象となっています。

 では、アメリカではそもそも 5G の何が問題なのでしょうか。

 

5G C-Band と呼ばれる周波数帯

 (同サイトの Resource を眺めた私の拙い理解ですが)結論だけ言えば、航空機に搭載されている、4,200 - 4,400 MHz の周波数帯を使用する電波高度計(Radio Altimeter)に、5G C-Band として使用する 3.7 - 3.98 GHz の周波数帯の通信が干渉して、悪影響を及ぼす恐れがあるということです。 

 

電波高度計とは

 航空機には高度を測定する計器が 2 種類有ります。一つは気圧をもとに高度を測定する方法、もう一つは、電波の反射により地表からの高度を測定する方法です。

 大気は気圧や気温の変化で伸び縮みするので、気圧高度はある意味、航空機同士の間隔を担保するためのものです。例えば、37,000 ft を維持していても、温度が高い地域を飛ぶ時には、地上からの実際の高度は相対的に高く、温度の低い地域を飛ぶ時には相対的に低くなります。その意味で、高度はやや相対的です。

 一方電波高度計は、電波の伝わる速度を一定と見なし(厳密には大気の影響を受けますが)、絶対的距離を測定します。そのため、電波高度計の情報は、離着陸前後の、低い高度で航空機の多くのシステムに使われます。当然ながら、異常値や誤作動は望ましいものではありません。後にご紹介しますが、過去には、エンジンの出力が勝手に絞られ、墜落に至ってしまった例がありました。

 現在、干渉の悪影響がすでに出ているのかどうかは分かりませんが、10 年ほど前には、航空機の運航で『EMI』が原因と思われる誤動作等が騒がれました。

 

EMI(Electromagnetic Interference : 電磁干渉)

 EMI 自体は特に新しい話ではありません、思いつく例を挙げれば、アナログ波でテレビを受信していた頃に、建物などによるマルチパスが原因で受信画像がダブって見えたり、最近では、電子レンジを作動させた時、その側では Wifi 接続が切れたり不安定になる場合がある、等があります。電子レンジと Wifi が同じ 2.4 GHz 帯の電磁波を使用するため、それらが干渉するのです。また、私個人は経験ありませんが、電子機器や回路が誤作動する場合もあるそうです。

 2010 年頃話題になった電波高度計の誤作動は、ほとんどが Airbus 機で発生していました(アムステルダムにおける B737 の例もあります)。以下は、ICAO(国際民間航空機関)と Airbus 社の当時のまとめです。ご興味のある方はどうぞ。

ICAO : Airbus Erroneous Radio Altitudes

https://www.icao.int/safety/acp/ACPWGF/ACP-WG-F-25/ACP-WGF25-IP07_Appendix2_FMG15%20PPT02%20Airbus%20Erroneous%20Radio%20Altitudes.pdf

Airbus : Radio Altimeter erroneus values

https://safetyfirst.airbus.com/app/themes/mh_newsdesk/documents/archives/radio-altimeter-erroneous-values.pdf

 

ちなみに 5G はどんな周波数を使っているでしょう

 5G については、様々なサイトで多岐にわたって詳細に説明されていますが、先に述べたように、日本ではどうして 5G 通信と航空機のシステムの話が出ないのかを明確にするべく、日本で使われている 5G の周波数を簡単にまとめてみました。

 まず、5G と言っても以下のように 2 種類あります。

① Sub 6 波(3.7 GHz および 4.5 GHz)

 4G が 3.6 GHz を使っていて、それに近い周波数帯であるため、4G の技術が転用できるそうで、そのため今使用している 5G はこちらだそうです。個人利用するには、今のところ十分そうですね。

② ミリ波(28 GHz)

 5G の特徴としてよく耳にする、超高速、大容量、超低遅延などはこちらが実現する可能性を多く持っています。インフラとして普及すると、社会全体としてまた一歩前進しそうですね。

 つまり、日本では電波高度計と干渉する周波数帯を使っていないから問題ない、ということですね。実現する技術と足並みをそろえて考えて行くのでしょうが、周波数の選定、割り当て自体で、その後の解決課題の多寡が決まるとすれば、よくよく検討する必要があるのだなあと、今更ながら感じた次第です。

 

 書き始めた時には全くそのつもりはなかったのですが、今回はめちゃめちゃ堅い話になってしまいました。自分でもちょっと頭が痛くなりました(疲)。

 本日も最後までお付き合いどうもありがとうございました。