寒冷渦、トロコイダル運動 ~ 気象予報をもう一度見直す - 2021.07.27 -
はじめに
一昨日位には、台風 8 号は房総半島付近から北関東を通過し、新潟県から日本海に抜けるという、ほとんど見たこともない予報が出ていました。どうなることだろうと、ドキドキしながら今日を迎えていたのですが…。実際には、房総半島沖で何となく停滞後、今度は北に進路を向け、明日 7/28 には宮城県付近に上陸、山形から秋田県の方へとその進路を取ることとなったようです。こうした進路も、これはこれであまり見たことがないのですが、きっと台風の西に位置する(とニュースで言われていた)「寒冷渦」が今回はよほど進路に影響を与えているのでしょうか。
寒冷渦とは
『対流圏上部を走る強風軸の蛇行が大きくなり、蛇行の一部が強風軸から切り離され、結果として上空に寒気が滞留する現象で、低気圧性回転を持つ。そのため、寒冷低気圧、切離低気圧 (Cut-Off Low) とも呼ばれる。地上天気図にはあまり現れず、中層~上層で顕著に見て取れる。』インターネットで調べれば、様々なサイトでこんな感じの説明におそらく当たることと思います。
しかし、ここ何日間かは、特に夏季ということもあり、日本付近に蛇行する強風軸が吹いている印象は全くありませんでした。前回書いたように、安定した高気圧圏内が本州周辺を覆っていると思っていたのですが…。ということで、数値予報を見てみることとしました。
気象庁 MSM によると
上図は、2021 年 7/27 午後 0 時 (12L) の上空の等圧面高度と風の様子です。左から、地表付近 (300 m)、大気中層 (5400 m)、対流圏上層 (12000 m、航空機の巡航高度付近) の解析です。
台風 8 号が上空まではっきり見て取れます。しかし、台風の西~南西には、台風の周囲を吹く風しかやはり現れていない気がします。
地上天気図を見直すと
この数日、沖縄県西、台湾北には台風 6 号、本州の遥か南東、東経 150 度北緯 28、9度付近には台風 8 号が位置していました。つまり、本州周辺は太平洋高気圧にしっかり覆われているわけではないものの、相対的には北からの寒気が張り出す高圧部となっていたと言えます。実際、西日本から紀伊半島周辺では、確かに高気圧圏内を飛んでいるような安定した状況でした。
つまり、台風 8 号は教科書通り太平洋高気圧の周囲を進行しつつ、太平洋高気圧に比べれば相対的に弱く張り出す寒気の間に進路を取っていた、と考えるのが妥当そうです。
確かに、ニュースで気象庁の方は、寒冷渦とはお話していましたが、寒冷低気圧、とはおっしゃっていなかったように思います。寒冷渦=寒冷低気圧と思い込んでいましたが、寒冷渦自体は、弱いながら高気圧性回転だったと考えれば、数値予報と整合します。
台風の眼の傾き ~トロコイダル運動~
数値予報を図示した後、寒冷渦よりも、台風の眼が上空に行くにしたがって結構傾いていることがまず気になりました。傾きが進路に影響を及ぼすことに何か名前がついてような、ということで探してみると、ありました、ありました。
定性的にざっくり言えば、
『台風の中心軸が高さ方向に傾いていると、地上気圧最小地点(台風の眼)と、台風の渦巻きの中心がずれ、前者(地表の台風の眼)が後者(立体的な渦巻きの軸)の周りを回転するという事態が起こる。台風の平均的移動(渦中心の運動)にこの回転運動が加わると、台風中心の蛇行運動が発生する。これをトロコイダル運動と呼ぶ。』
この運動は常に反時計回り、規模は数十~数百 km、周期は数時間~数日とのことです。定量的には、事例に基づきもっと詳細に考える必要がありそうですし、現時点では全く私の理解を超えますが、様々なスケールの現象が重なって一つの結果となる点が、気象の難しい所であり、面白い面であると改めて感じた次第です。
本日も最後までお付き合い、ありがとうございました。