西風実に強けれど揺れず - 2021.12.14 - ジェット気流の前線帯を考える

氷点下の朝

 昨日今日、ついに成田空港でも早朝の気温が氷点下となりました。ついに本格的な冬に突入してきた感があります。冬の早朝、どういうわけか成田界隈はよく冷えます。都内の街中と比べると 5、6 ℃、東関東自動車道から空港道に入ってからも、数キロの間に、時には 2 ℃位は気温が下がります。日の出前の冷えた朝には、成田と札幌新千歳の寒さ争いに、興味津々だったりします。

 

気圧配置と強風帯の不思議

 ラニーニャの影響で今年は寒くなる、と言われています。もっとも、地上天気図の気圧配置的には、少なくとも今のところは、西高東低の冬型の気圧配置というよりは、移動性の高気圧と呼んでいいのではないかと思えるような日が少なくありません。揚子江界隈から張り出してきた高気圧が九州四国から本州を東進、その高気圧の北に位置する低気圧が北海道南部を通過して、等圧線の込んだ地域は、本州北部から北海道に限られているような印象を持っています。

 そのせいか、国内悪天予想図 (FBJP) には、早ければ 11 月半ばには日本近辺では 2 ないし 3 本のジェット気流と呼ばれる強風軸が、12 月に入った今でも九州南部~やや南に亜熱帯ジェット 1 本しか予想されていないことが多い気がします(詳しくは、例えば以下専門天気図 FBJP をご覧下さい)。

www.sunny-spot.net

 ただ、強風軸の予想されていない本州上空でも、軽く 100 kts を超える西風が吹いており、130 kts を超えていることもあります。通常であれば寒帯ジェットと呼べそうですが、温度勾配による前線帯が形成されていないためでしょうか、あるいは高気圧圏内で大気の成層が安定しているからでしょうか。晴天乱気流(CAT)の発生条件にばっちり当てはまりそうですが、数値予報上顕著な風のシア域とはなっておらず、実際ほとんど揺れません。

 

強風帯の前線帯の特徴の有無

 乱気流の予報域で実際にその強度の乱気流に遭遇することも確かに稀ではありますが、風のシアという渦の発生するポテンシャルだけでは、揺れの原因となる気流の乱れが生まれるわけでない状況に、今月は何度も遭遇しているため、風と温度の鉛直分布を見直してみることとしました。

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 上図は、いつものように気象庁の高層気象データをお借りして図示した、2021 年 12 月 14 日午前 9 時における松江(左)、潮岬(真ん中)および館野(右)の大気鉛直方向の気温および露点、そして風の分布です。

 国内悪天予想図によれば、この時刻には、鹿児島上空~潮岬南約 200Km~房総半島南端 300Km ほどの高度 36,000 ft(およそ11000m)に軸を持つ 160 kts の強風帯が予想されていました。

 強風帯に近い潮岬では、300/250 hPa で 150 kts の風が観測されており、軸から離れた松江および館野における同高度では、90 ~ 110 kts 程度の風が観測されています。実際に航空機の飛行した 200 ~ 300hPa 周辺における本州の上空の風は、同程度の風向風速でした。

 強風軸の前線帯になりがちな 25,000 ~ 30,000 ft 辺りでは確かに風速は増えているものの、一方気温の不連続性は、全くないとまでは言いませんが、顕著には見当たりません。100 ~ 110 hPa 辺りの圏界面に向かって概ね定常的に気温が下がっています。むしろ下層における雲の有無に対応すると思われる高度の方が、逆転層のような不連続性がはっきり見受けられます。渦の発生するポテンシャルがあるからと言って、運航に影響を及ぼす渦が実際に発生するわけではないのは、気温がこのように定常的に減温して行くこと、つまり不連続性が顕著でないことが一因かもしれません。

 

 後付けで理由を考えてみましたが…、地上天気図等の気圧配置と合わせて予想するのが、現実的なところのようですね(すみません、全く定量的、法則的でないまとめです)。

 

終わりに

 ところで、移動性高気圧のような気圧配置に見えるということは、そうした気象状況は割と足早に変化して行くということです。それは、気圧の谷間が出来て天気がすっきりしなかったり、前線を伴った低気圧がやって来るということもあります。そして、状況にもよりますが、地上の天気が変化するよりも早く、あるいは顕著に上空の状況が変化する場合があります。本日 12/15 はそんな一日でした。お天気も人生もですが、理由の見出せない状況ほど対応に苦慮することはありませんね…。

 気象庁の高層気象データは、地点はやはり限られますし、発表時間も次の日になりますが、上空の観測データが見られるという点でやはり素晴らしいと思うこの頃です。気象を後から見直す場合には特にそうです。

 

 本日も最後までお付き合いどうもありがとうございました。