今シーズンはジェット気流も強い - 2022.01.18 -

ジェット気流の風速の「大台」

 「大台に乗る」という言い回しは、色々な場面で耳にします。株価、年齢、あるいは体重など、節目や区切りとなる境目に達する場合に使われますが、もともとは、株式市場で使われる言葉なのだそうです。

 この冬は、新千歳空港で雪の降り方がなかなか激しいことは先日書いたところですが(ご興味のある方は『千歳の雪』をどうぞ)、ジェット気流と呼ばれる強風軸の風も平年以上に強いことが多いと感じています。

 どの程度の風速が強風軸の標準値なのかは、多分決まっていないと思いますが、目にしないわけではないけれども、そうしょっちゅう遭遇しない風速、つまりジェット気流の風速の大台は(あくまで私の基準ですが)、「200 kts」です。200 kts と言えば時速 370 km/h ほど。新幹線の時速以上の速さです。

 この冬は、特に昨年末から現在まで、予報でも実際にも 200 kts を超える強いジェットが形成されていることがしばしばあります。飛行機の水平飛行中の巡航速度が 420 ~ 440 kts 程度であることを考えると、こうしたジェット気流を正面から受ける西行きの飛行では、地面に対する時速は半分近くになり、反対に追い風となる東行きでは、5 割増となります。冬には西行きは実に遠く、東行きはあっという間に戻ってこられるのはこのためです。

 

ラジオゾンデでも 200 kts 超えの風速は観測されたのでしょうか

 昨日から今日にかけ、九州北部・中央部~紀伊半島南端~八丈島上空 34,000 ~ 35,000 ft に風速 210 kts の強風軸が予報されており、実際その程度の風が吹いていました。なかなかお目見えしない風速なので、高層気象データを見てみることとしました。

 

f:id:ohigehige:20220119213636p:plain

 上図は、いつものように気象庁の高層気象データをお借りして図示した、2022 年 1 月 18 日午後 9 時における潮岬(左)および八丈島(右)の大気鉛直方向の気温および露点、そして風の分布です。

 強風軸の高度を予報されていた 34,000 ft は 250 hPa 付近、潮岬では 195 kts となっていました。残念ながら、観測値としては 200 kts に届かなかったようです。

 通常、ジェット気流に伴う揺れやすい領域は、強風軸の中心高度から 3 ないし 4000 ft 下に形成されます。上空の前線帯と呼ばれますが、これは、風速が強風軸高度を中心に急変する場所となるためです。

 しかし、この日は、強風軸下の前線帯以上に、強風軸の中心高度から数千 ft 高い高度で風速の大きな変化域(wind shear 域)が結果として形成された状況となっていたため、強風軸より高い高度での揺れの方がむしろ気になりました。強風軸の風速がここまで大きくなると、むしろ風の急変域は、成層圏下部、圏界面付近となる強風軸上部なのかもしれない、と思った次第です。

 

強風軸の風速が例年以上に大きい理由を考えてみました

 冬場にジェット気流と呼ばれる強風軸が顕著となるのは、南北の温度勾配が冬場に大きくなるためですが、その風速が例年以上に大きいことが今シーズン結構多い理由を、現時点でちょっと考えてみました。

 肌感覚以上に確かめようがないのですが、今年の傾向として、以下の 2 点が挙げられるのかもしれません。

<理由①> 大陸からの寒気の張り出しが強い。 → 寒帯ジェットの場所が例年東北地方あたりのことが多めですが、茨城北部を通っていることもある。

<理由②> 南からの暖気域が張り出している。広い。 → 亜熱帯ジェットが種子島屋久島~奄美諸島界隈を通ることが多い中で、九州上空を通っている。

<結論> この結果、南北の温度勾配が顕著となる領域が例年より南北方向に狭い。つまり、勾配が大きいため、形成される強風軸の風速も大きくなる。

 あくまで現段階の感覚的なものから理由を考えてみましたが、冬が過ぎ、今シーズンの総括が出たらまた振り返ってみたいと考えています。とはいえ、もし本当に南からの暖気域が広いとしたら、それはやはり温暖化が一因なのでしょうか。過去の悪天予想図など見比べて、何か分かったら教えて頂ければと思います。

www.sunny-spot.net

 

 明日は大寒、一年で寒さの一番厳しくなる時期ですが、一方で日が少しずつ長くなっているのも感じます。何時までも冬の最中ではない、と思ってしまうのは、ちょっと気が早いですね。

 本日も最後までお付き合いどうもありがとうございました。